まず、2つの物差しを並べてみる
データテーブルには、お金に関する列が2つある。「平均年収」と「所得の中央値」だ。似ているようで、中身はまったく別物。
| 平均年収 | 所得の中央値 | |
|---|---|---|
| 誰を数える? | 雇われて働く人。パートの人も、フルタイムで働いた場合に換算して数える | 国民全員。子どもや高齢者、働いていない人も含む |
| 何を数える? | 税金や社会保険料を引く前の賃金(給料) | 世帯(同じ家計で暮らす人たち)の所得。給料のほか年金や給付なども合わせ、税金と社会保険料を引いたもの(可処分所得)。国によっては消費(暮らしに使ったもの。自分で作った食べ物なども含む) |
| どう数える? | 全員分を足して、人数で割る(平均) | 世帯の所得を家族の人数で割って1人ずつに割り当て、全員を並べたときの真ん中の人の値(中央値) |
| 単位 | 1人あたり、1年 | 1人あたり、1日 |
| 出典 | OECD(加盟38か国) | World Bank(このサイトに載っているのは170の国と地域) |
4人家族で考えてみる
父の年収が600万円、母と子ども2人は収入なし、という4人家族があるとする。話を簡単にするため、年金や給付などほかの収入は考えない。
- 年収の統計では、「600万円の人が1人」と数える。母と子どもは働いていないので、数に入らない
- 所得の統計では、600万円から税金と社会保険料を引いた額(仮に470万円とする)を4人で割って、「約118万円の人が4人」と数える。4人が実際に118万円ずつ受け取るという意味ではなく、「1人あたりにするとこの額」という計算上の割り当てだ
同じ家族なのに、片方は600万円、もう片方は118万円。数える相手(働く人か、全員か)と、数えるお金(給料か、世帯の手取りか)が違えば、数字は何倍も違ってくるんだ。
日本の数字を見てみる
データテーブルと、その元データで日本を確認すると、こうなっている:
| 日本 | 値 | 対象年 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 平均年収(OECD) | 518万6千円(名目) = 50,183ドル(2025年価格・2025年の購買力平価(PPP)) | 2025年 | 雇われて働く人1人の、税引き前の年間賃金の平均(フルタイム換算) |
| 所得の中央値(World Bank) | 1日 42.17ドル(2021年PPP)。365倍すると年 約15,400ドル | 所得の対象年 2020年(2021年調査) | 国民全員を並べたときの、真ん中の人の1人あたり世帯所得 |
PPP ドルというのは、購買力平価(Purchasing Power Parity、略して PPP)で換算したドルのこと。物価の差を調整して「同じ量のものが買える」ように直したドルで、銀行で両替するときの為替レートで直したドルとは違う(日本の2025年なら、1 PPP ドル = 約103円、為替は1ドル = 約150円)。ただし、2つの数字は基準の年が違う。平均年収は2025年の価格と2025年のPPP、所得の中央値は2021年のPPPで計算されている。同じ「PPPドル」と書いてあっても同じ物差しではないので、片方をもう片方で割って「何倍」と言うことはできない。
それでも、はっきりしていることがある。2つの指標は、違うものを数えているということだ。4人家族の例は、その違いを理解するための例だよ。この表だけでは、差の大きさや、その原因を決めることはできない。
ほかの国はどうか — 国際比較
両方の数字がある国を並べてみる。対象年が指標ごと・国ごとに違うので、年も一緒に見てほしい。
| 国 | 平均年収 (ドル、2025年PPP) | 年 | 所得の中央値 (1日、2021年PPPドル) | 年 |
|---|---|---|---|---|
| 🇺🇸 アメリカ | 86,977 | 2025 | 72.07 | 2024 |
| 🇩🇪 ドイツ | 76,285 | 2025 | 64.18 | 2022 |
| 🇬🇧 イギリス | 66,299 | 2025 | 54.55 | 2021 |
| 🇰🇷 韓国 | 61,259 | 2025 | 54.25 | 2021 |
| 🇫🇷 フランス | 60,483 | 2025 | 57.21 | 2023 |
| 🇯🇵 日本 | 50,183 | 2025 | 42.17 | 2020 |
| 🇵🇱 ポーランド | 49,074 | 2025 | 38.84 | 2023 |
| 🇨🇱 チリ | 40,626 | 2023 | 24.57 | 2024 |
| 🇲🇽 メキシコ | 24,463 | 2025 | 14.29 | 2024 |
発見 — 2つの指標の高い・低いの順番は、おおむね似ている
この9か国の表では、平均年収が高い国は、所得の中央値もだいたい高い。アメリカが両方でいちばん上、メキシコが両方でいちばん下だ。2つの指標の高低の順番は、おおむね似ている。
ただし、2つの数字の差を国どうしで比べることは、この表ではできない。年額と日額が並んでいて、PPPの基準年も違うからだ。差を生む可能性のある要因としては、数える相手(雇われている人か、全員か)、所得の範囲(給料だけか、年金や給付も含むか)、平均と中央値の違い、働く人の割合、家族の人数、対象年の違い、といったものがある。「どの要因がどれだけ効いているか」を知るには、別の統計が要る。
「年収の中央値」はどこ?
ここまで読んで、「じゃあ、年収の中央値は?」と思った人もいるはず。年収の中央値を国どうしで比べられる公開データは、あることはある。たとえば EU の統計局 Eurostat は、加盟国の年間賃金の中央値を公表している。ただし、対象国、対象者、調査年が限られる。このサイトには今のところ、年収の中央値の列は設けていない。
代わりに、OECD が公表している「賃金格差」を載せている。これは、フルタイムで雇われて働く人の税引き前の賃金を低い順に並べて、下から90%の地点の額を、10%の地点の額で割った数字(D9/D1)。数字が大きいほど、高い人と低い人の差が大きい。
| 国 | 賃金格差 (D9/D1) | 年 |
|---|---|---|
| 🇺🇸 アメリカ | 4.69倍 | 2025 |
| 🇰🇷 韓国 | 3.62倍 | 2025 |
| 🇬🇧 イギリス | 2.98倍 | 2025 |
| 🇩🇪 ドイツ | 2.89倍 | 2024 |
| 🇯🇵 日本 | 2.64倍 | 2025 |
| 🇮🇹 イタリア | 2.38倍 | 2024 |
日本は、賃金の下から90%の地点が、10%の地点の2.64倍。アメリカ(4.69倍)よりずっと小さい。「年収の中央値」の額そのものは、Eurostat や各国の統計(日本なら国税庁や厚生労働省の調査)など、対象に合った別の資料で調べよう。
この数字から読み取れないこと
- 平均年収は「平均」: 平均は、高い給料をもらう人の影響を受けるため、身近な人たちの実感とずれることがある
- フルタイム換算: OECD の平均年収は、雇われて働く人の賃金を、フルタイムで働いた場合に換算したもの(フルタイム換算 = 働く時間の違いをならす計算)。パートの人の実際の年収ではない。自営業の収入なども含む世帯所得とは、対象が違う
- 基準の年が違う: 平均年収は2025年価格・2025年PPP、所得の中央値は2021年PPP。2つを割り算して倍率を出すことはできない
- 調査年がバラバラ: 所得の中央値は国ごとに対象年が違う(日本は2020年、アメリカは2024年)。年をそろえた比較ではない
- 所得か、消費か: 所得の中央値は、国によって「所得」ではなく「消費支出」で調べている(データテーブルで * 印の国)。インドや多くの途上国がそう。所得ベースの国と単純には比べられない
- PPPドルは為替レートではない: 銀行で両替するレートとは違う。「同じ量が買える」ように直した計算上のドルで、日常の感覚とはずれることがある
自分でも確かめてみよう
データテーブルで「国連加盟国」のボタンを押してから、「カラム」ボタンで「暮らし」を選ぶと、「平均年収」「所得の中央値」「賃金格差」「平均寿命」が並ぶ。平均年収は1年の額、所得の中央値は1日の額なので、年に直すときは365倍してね。表示は小数1桁に丸めてあるので、元データ(42.17)から計算した記事の数字とは、わずかにずれることがある。
データテーブルを開く →出典と計算方法
- 平均年収: OECD Data Explorer Average annual wages(DSD_EARNINGS@AV_AN_WAGE)。雇われて働く人(パートも含めフルタイム換算)1人あたりの税引き前の年間賃金の平均。ドルは2025年価格・2025年PPP、円は名目。各国の最新年(多くは2025年、チリは2023年)
- 賃金格差: OECD Data Explorer Decile ratios of gross earnings(DSD_EARNINGS@DEC_I)。D9/D1、男女計、フルタイム雇用者、各国の最新年(表に記載)
- 所得の中央値: World Bank Poverty and Inequality Platform (PIP) の API。1人1日あたりの所得または消費の中央値、2021年PPPドル、全国、各国の最新の実際の世帯調査にもとづく値(補間値は使わない)。日本は JHPS/KHPS(LIS 経由)の所得データで、所得の対象年は2020年(2021年調査)。年に直すときは365倍した
- 年収の中央値の例: Eurostat earn_ses_annual(年間賃金の中央値、ユーロ建てと購買力調整済み)
- 4人家族の例の手取り(470万円)は、説明のための仮の数字。実際の税・社会保険料は家族構成などで変わる
- データの取得日と、定義・出典の確認日: 2026年9月15日。操作手順の確認日: 2026年9月25日
まとめ
平均年収は「雇われて働く人1人の、税引き前の給料の平均」。所得の中央値は「国民全員を並べたときの、真ん中の人の1人あたり世帯所得」。数える相手も、数えるお金も、数え方も違う。だから日本では519万円と1日42ドルという、まるで別の数字になる。
2つの数字は基準の年も違うので、割り算で「何倍」とは言えない。でも「年収」や「所得」という言葉を見たら、誰を、何を、どう数えた数字なのかを確かめてみよう。それだけで、ニュースの数字がずっと読みやすくなるよ。